LOGINこちらは黒の国
黒の王宮、人質に選ばれた王子アーシュラン、アーシュと愛称として、呼ばれていた。
黒の王宮の片隅 彼は静かに、窓辺で本を読んでいる。
まだ幼い少年アーシュラン、彼の黒髪が風に揺れていた。少年のエルフのような耳が揺れる。
黒のチュニックは膝より上の長さで、赤いトーカ゚、赤い、布の帯
「アーシュ兄さま」
少女は赤いチュニック 腕、足元に小さな宝石入りの金色の帯、裾に金色の刺繍入りのドレスに片方だけのお団子に結い上げた長い黒髪、お団子の髪の中には小花の小さな赤い宝石
綺麗に着飾った、同じ耳を持つ美しい少女が部屋に飛び込み、彼に抱き着く
綺麗な美しい衣に艶やかな髪、黒髪は複雑な形で結われて、宝石のピンをつけて煌めくような まだ幼いが、極上な美貌の持ち主の少女
少年と少女の宝石、ルビーのような赤い瞳が互いを見ている
◆ ◆ ◆
「…テイ、テインタル」
少年は、表情も変えずに、ただ一言、少女の名前を呼んだ。
「あのね、私、テイは刺繍入りのハンカチを作ったの 使ってね」
頬を赤くして、少女は少年、兄にハンカチを差し出す。
「・・・・・」「どうかしら?」
「とても、良く出来ている、嬉しいよ」
「うふふ、有難う、兄さま」
彼はあまり表情を変えずに、一言ぽつん
「あの、アーシュラン兄さま、本当に白の国へ行かれるの?」
「ああ、父王たちが、そう決めたからな」
無表情の兄アーシュの言葉に
哀しそうな表情を浮かべる妹テイ、テインタル
「私もついて行きたい、アーシュ兄様の傍に居たいわ」
幼い妹のテイが抱きついたまま、ぽつりと一言
◆ ◆ ◆
「元は敵国、大使というのは名目で人質だ、変な事を言うじゃない、火焔の瞳の王女さま」
「それに300年、アジェンダ王以来の火焔の瞳の持ち主、長く出現を待ち続けた、火焔の王女だ
戦の為に生まれてきた魔力を示す宝石のような深紅、火焔の色」
「弟の瞳の色は 確かに父と同じ色の金色
弟のアジュアリは次に望まれる魔力である黄金、黄金色の瞳ではあるが」
「将来は、お前が間違いなく、女王だ」
「それ、変、だって、アーシュ兄さまだって 私と同じ赤い瞳よ」
◆ ◆ ◆
「俺は、人族の寵姫の子、しかも、哀れな母のリジャは浚われて 一時、夜の・・多くの者達が母に触れて…あ、いや、何でもない」
「・・長年 子供が出来なかったから 子供が出来やすい人族の女に俺を産ませただけだ」
「当然だが、俺の魔力も寿命も純血な者達とは違う…半分くらい」
「正妃アリアンさまと父王アージェントの子のお前とは立場が違い過ぎる」
「だから、正統な純血な血を持つのは 異母妹弟テイとアジュアリだけだ」
不満そうに兄アーシュを見つめる
異母妹のテイ、ティンタル王女
「だって、変よ、兄さま…本来なら、赤い火焔の瞳というだけで、この黒の国は」テイ
軽く笑みを浮かべ アーシュは手元にあった小壺から手製のクッキーを
取り出して 異母妹のテイの口に押し込む
はぐはぐ、モグモグ
「美味しい、兄さまのお手製ね」「まあね」
「オレンジピールがついて美味しい」
「お褒めに預かり光栄 では、王女様
そろそろ帰らないとお前の母親アリアン王妃さまが、またお怒りだ」
「・・・・・」
そっとテイは兄の唇に自分の唇を重ね、すぐに離す
「兄さま、異母兄妹なら婚姻も可能なのよ、何せ魔力を高める為に
近親婚を重ねたから、アジェンダ王の両親も異母兄妹だった」
「アリアン王妃は絶対許さないから、変な事は言わない」
「王女さまに クッキ―を捧げようか」
「手紙は書くから」
「約束よ、兄様、クッキーは美味しいわ、ありがとう」
肩をすくめ、手渡された小さな壺に入った、実はアーシュの手製のクッキーを持ち
異母妹ティ、テインタル王女は立ち去る
◆ ◆ ◆
閉じたドアに、ただ、ため息をつくアーシュ、アーシュラン
黒の王妃アリアン、彼女は例えようもない程に美しい、艶かな黒髪
「あの時に俺は…」
母親が亡くなり、王宮に来た、あの日 始めて会った王妃は誰より、優しくアーシュを労り、会話した。
その優しい暖かな時間は…アーシュが王の側室、寵姫の子供と知るまでは、束の間に続き
淡い恋心…ほのかな想い
だが、今は憎悪だけをぶつけられて
多分、役目通り、自分は敵国でやがては殺される。
◆ ◆ ◆
それは前の世代の時のように
例えば人質になった者達
大貴族に王族の子供達
「アジェンダ王の妹姫は…人質になり、形だけのはずが殺された
アジェンダ王の母親の女王は暗殺」
母親譲りの美しいティ、ティンタル
華やかな光を浴びる、赤い瞳のテインタル王女に
影に潜むように諦めた冷たい表情のアーシュ,アーシュラン王子
恐らく、人質として処刑される運命が待っているとアーシュは考えていたが‥
だが、運命は皮肉な結末を用意していた。
王国は一度、滅ぼされ、アーシュは最後の黒の王として国の頂点に立ち
敵に捕らわれたテインタル王女は 敵の間者として 生涯を日陰で過ごす
美しい美貌を隠し、ひっそりと……自分の家族を惨殺した敵の為に
身の純潔は火焔の魔力で無事だったものの
敵に従う呪いの入れ墨を彫られ
黒の王アーシュを殺したいという衝動も呪いの入れ墨には入れられて
「黒の国境での任務はほぼ無事に済んだのだからねえ、アーサー、貴方は巨人族の国へ急いで戻りなさい」「ティンタル姫様」「エリンシアの為にも…巨人族の王から貴方の大事なエリンシアを取り戻さないと」隠れ家でアーサーとティンタルが言葉を交わしていた。「エリンシアの身体は弱っているのに 巨人族の王は…なんて酷い」ティンタル「姫様…ティンタル姫様」アーサーは泣きそうな顔でどうにか言葉を絞り出した。「少しでも早く…残りの後始末なら私でも大丈夫だから」ティンタルドンドンと扉を叩く音と共に勢い良く扉が開く部下のランディが息を切らして、部屋に飛び込んできたのだった。「ランディ」「ランディなの?どうしたの?」「大変です!黒の軍勢が…この隠れ家が奴等に発見されました」「何ですって!」アーサーにティンタル、数十人の部下達が慌てて鎧に剣を取る数人は示し合わせたように盗み出した黒の国の機密を書き写した書類などを懐にしまい込んだ。「行くわ!この場を脱出するわよ」そうして、小競り合いの戦いが始まった!「風よ!敵を蹴散らせ 黒の王女たるティンタルが命を下した!」水辺のある低い崖での戦闘黒の兵士達が悲鳴を上げ、風に吹き飛ばされ水辺へと…。
巧みないつも通りの羽琴の演奏滑るように軽く踊るような指先の動きでエリンシアの演奏で羽琴の弦は優しい調を奏でていく。巨人族の王の城で、そうしていつも通りエリンシアは羽琴の演奏を終える。王の居室 王はベッドに身体を横たえ酒を煽るように飲んでいた。いやらしい卑猥な笑みを浮かべ、さも当たり前のようにエリンシアに言う「服を脱げ、俺を十分に満足させろ…分かっているなエリンシア」泣きたい、逃げ出したい気持ちを堪えながら言われるままに服を脱ぎ捨てたエリンシア 微かに震える自分の身体ベッドにそんな自分の身体を横たえる胸を捕まれ、白い肌を乱暴に扱われ四つん這いにされ、猛り狂うものを幾度も押し込まれて喉を潰されたエリンシアは、くぐもった微かな声を上げる。「もっとだエリンシア、もっと満足させろ」次には王の身体の上で、思う様、弄ばれたそうして…悪夢のような時間の後エリンシアはようやく解放され、逃げるように部屋を出た。用意された部屋に駆け込むように必死でよろめきながら、歩いてゆく 瞳からは絶え間ない涙…涙部屋ならば一人で泣く事も暖かな湯で湯浴みも出来るのだから「エリンシア、白の国のエリンシアだったか」声をかけた者 確か、王の弟で長く戦に出ていた者王の弟舌なめずりをして笑う「前にも会った…兄の寵姫だ 俺は兄の王とは…仲が良い」「兄の王に可愛がって貰ったかお前の夜伽に兄の王はとても、満足して貰っているようだ…ククッ」「昔の戦で捕らえた奴隷の中でも、本当にお前は美しい」「兄の王にも、あのアーサーも…お前に夢中だ…黒もだが、白の貴族の娘は年を取らずに 姿は美しく、二十歳代のまま」「是非、俺にも羽琴の演奏に夜の無聊を慰めて貰いたいものだ」
「お母様?」「ママ」エリンシアは大事な子供達を抱き締める。ほほ笑むとエリンシアは 小さな板に文字を書き出すのだ「お母様、王様のお城に行くの?」エリンシアは小さな娘のティナに頷く「…何だか心配なの、一緒に行きたい」いつもは聞き分けの良いティナが何かを感じたのか…そんな言葉を口に出す。慌てて、首を横に振り、ティナをエリンシアは再び抱き締めたのだった。そして、娘の小さなティナにまた板に文字を書いて、手渡した。巨人族の王様達は大変、気難しい処があるもし、何かの事で不快感を持つといけないから大事なアーサー お父様のためにも 二人は良い子で御留守番をお願いね近くに住む親戚の方々、叔母さま達に家の使用人達も二人の傍に居るわ「お母様、エリンシアお母様は大丈夫なの?」頷き、また小さな板に文字を書くエリンシア私なら以前は王様の傍で御世話の仕事をしていたの王様達の為に琴、羽琴を演奏したりしていたから、大丈夫なのしばらく、多分だけど戻れないわ「分かりました エリンシアお母様」この子供達、ティナ、アンリス 夫アーサー私は…私が出来る事を 守らなくては◇黒の国の国境付近に夫アーサー達がいたガシャーン アーサーは手元にあったグラスを落とした「あら、大丈夫?どうしたのアーサー」黒の王女テインタルが尋ねた。「…また、エリンシアがエリンシアが王宮に…王が呼び出したそうです」震える声で親戚の者たち、ティナからの手紙で状況を知るアーサー
それから日々は過ぎ去り…「お父さん、また、しばらく戻らないのね」「ああ、そうだよ、ティナ、父さんは…テインタル様と一緒に大事な仕事があるから」ティナの赤い髪を撫ぜながら、父親のアーサーは微笑む。大事な仕事…黒の国に潜入したりする事に国境で繰り返されている巨人族と黒の国の小競り合いの戦いの数々戦の仕事…。「……」寂しそうに小さなアンリスを抱きかかえエリンシアがほほ笑む。「大事なエリンシア、大事なティナにアンリス必ず戻るから…」「最近はティナは料理も楽器の演奏も上手になって帰って来たら、エリンシアとティナの料理に演奏を愉しみにしてるからね」「はい、父さん!」「使用人達も居る、親族の者達も来るから…」アーサーは二人を抱きしめるそれから、エリンシアの唇にアーサーは自分の唇を重ねた。「…誰より、美しいエリンシア…」「…」涙ぐみ頬がほんのりと赤くなるエリンシア種族の特性でエリンシアの容姿は二十歳代のまま変わらない…エリンシアの儚げな面立ち、左右の色違いの瞳に金の髪が揺れる。だが、その麗しい美貌ゆえに白の宗主に…先の黒の王アージェント巨人族の王に身体を奪われる事になったのだ。◇ ◇ ◇それから…間もなくの事である。「エリンシア母さま、巨人族の王様、お城から呼び出しなの?」ティナが聞く「エリンシア母さま、顔色が悪いわ!大丈夫?」巨人族の王は…まだ、エリンシアの身体を欲しがっていたのだった。逆らえば、どうなるか…エリンシアは濁流に飲み込まれる木の葉のように抗えない。
アンリス…赤子の名前「元気な赤子、大きな声で泣いている」手伝いに来た者たちがそんな話をしていた。「とても、可愛いよエリンシア、有難うゆっくりしてくれ」アーサー「ゆっくり休んでねエリンシア」ティンタルは微笑した。赤ん坊を抱く二人の子供の父親になったアーサーアーサーは大事な赤子を嬉しそうに抱いていたのだった。 「お母さん、お父さん、アンリスを抱いて良いかな?」気恥かしそうに姉になったティナが聞くエリンシアはベッドの中で頷き父親のアーサーも頷きながら「お姉さんになったね、ティナ」と言いながらそっとまだ生まれて 数日の赤子をティナにそっと、優しく手渡す「あ…可愛いわ!」アンリスは両生体だった。この赤ん坊はエリンシアの最初の子供であるエイル、エルトニアと同じく「私の弟になるのかしら?それとも妹?」「成長するまではね、まだ分からないそうだよティナ」笑い、ほほ笑むアーサーやティナを見ながら深い疲れと眠気に囚われる母親のエリンシア…この雪深い巨人族の国に来て、ずっと、ずっと私の身体は少しづつ弱っているような気がする。…巨人族の者たちが拐って来た多くの白の国の者たちが…黒の国の者達と違い、儚い幻のように力尽きて死んでしまったと聞いた。癒しの魔法に薬師の薬も服用しているのだけど心の深い傷長い年月の辛い過去の出来事が私の身体を蝕んでいるとも白の国の民…住んた地からは離れ過ぎて生まれ地、大地の守護力が遠く離れて届かないのだろう或いは荒ぶる巨人族の加護、巨人族の生まれた大地の力が白の民には毒…毒なのだと…薬師達が言うだとしたら?私は?……………愛するアーサー、ティナ、生まれたばかりのアンリスを置いて?エリンシアの瞳から涙が一筋気づかれぬように拭うエリンシア
「エリンシアの体調が良いから、一安心だわね可愛いティナ」「はい、ティンタル様、私も母さんが元気そうで嬉しいです」暖炉の傍で暖かなショコラを飲みながら、ティンタルが呟き小さなティナがその言葉に答えた。無事にエリンシアの出産を終えて、しばらくの後ティンタルは自分の怪我の治癒、休養に互いの雪の季節故に黒の国と巨人族の国との戦争、小競り合いは休止状態であるので今もエリンシア達の家にのんびりと居座りを決め込んでいたのだった。「ティナのお焼き菓子は美味しいわ、ありがとう」まだ小さなティナの赤毛の頭を優しく撫でながらテインタルが呟くように言う「テインタル様、ありがとうございます」頬を赤くして、小さなティナ最近は母親のエリンシアに廻りの者たちから料理を習い、ティナは少しづつ料理の腕前を上げてゆく他にも学ぶ事は多く、父親のアーサー達に母親のエリンシアからは楽器の演奏もはじめていた。「テインタル様、また黒の国の言葉を教えて下さい黒の国の絵本を貰いましたから、読みたくて」「ええ、大丈夫よ、良いわ」「異国の遠い国、黒の国の事がもっと知りたいです、ティンタル様」「だって、とても綺麗なティ様、ティンタル様の故郷ですもの」確かに…黒の国は懐かしい故郷、愛する王国束の間…ティンタルの記憶の中にある懐かしい幸せな幼い少女時代の記憶が脳裡をよぎる。だが、今のティンタルは逆らえない命令とはいえ、同胞である黒の国の民に刃を向け、多くを傷つけ、殺した。少し戸惑う表情をしてから、黒の王女であるティンタルは答えた。「…そうね、沢山教えるわ」「本当は武術も教えた方が良いのかしらね」少し考え込む仕草をして「ティナの魔法資質はどうかしら?」







